【トップチーム特集】苦戦の中で種を蒔いた3月。いざ芽吹きの4月へ

連戦と苦戦を乗り越えようとした3月

 2021シーズンのベガルタ仙台は、苦難の船出となった。2月27日に明治安田生命J1リーグ第1節となる広島戦を戦い、それから短い間隔でリーグ戦とJリーグYBCルヴァンカップを戦った。スタートダッシュで勢いをつけたいところだったが、3月は公式戦で勝てないまま終わる厳しい結果に終わった。しかしその苦難に立ち向かうチームは、勝利を求める過程で、歯を食いしばりながら成長を続けている。
 今シーズン初戦の広島戦は、開幕戦独特の堅さも予想されるところで、守備から入るゲームプランでスタート。しかし仙台は前半のうちに退場者を出して10人になり、しかも相手に先制を許す難しい展開になってしまった。
 開幕早々に訪れた試練。手倉森誠監督はこの状況でやるべきことを整理すべく、まずは勝点1、つまり引き分けでゲームを終えることを優先するプランをハーフタイムに提示。ただし、守ってばかりでは追いつくこともできないので、交代策で少しずつ流れを変えて、終盤に1点を取るための勝負をかけた。
 これに選手も応え、ヤクブ スウォビィクがファインセーブを連発するなどして追加点を許さず。そして試合がアディショナルタイムを迎えようとする頃に、その努力が実った。左サイドから相手の守備を崩し、先発から走り続けてきた関口訓充が力強いドリブルからシュート。これは相手DFにブロックされたが、途中出場の赤﨑秀平が落ち着いて詰め、同点ゴールを呼び込んだ。「自分の気持ちとチーム全員の気持ちが乗っかってうまく入ってくれた」と赤﨑が振り返ったように、ピッチに立った選手もベンチの選手もスタッフも力を注いだからこそもぎ取れた勝点1だった。
 この流れに3月の試合で乗りたいところだったが、中3日もしくは中2日で次々試合がやってくるところで、仙台は苦戦を強いられる。ホームに戻って迎えたJ1第2節・川崎F戦では昨シーズンに果たせなかったユアテックスタジアム仙台での勝利をサポーターに届けたいところだったが、王者・川崎Fの圧倒的な力を見せつけられ、1-5と大敗。この状態からなかなか立ち上がれず、3月は勝利をあげることができないまま終わってしまった。

新たな力が台頭。チームに武器を加える

 結果を手にすることができなかったことは重く受け止めなければいけないが、チームには少しずつ積み上がっているものがある。
 そのひとつが、新戦力がチームに加えた新しい武器だ。3月は試合数が短い間隔で多く組まれていたこともあり、コンディションも考慮して手倉森誠監督は多くの選手を起用した。負傷で離脱していた照山颯人、3月の公式戦終了時点で日本に入れなかったエマヌエル オッティとストイシッチ(※2選手は3月28日に入国)、フォギーニョを除く全選手が公式戦でベンチ入り。うちGK井岡海都を除く全員がピッチに立った。
 J1開幕戦では、実に6人の選手が先発出場。4日後のルヴァンカップ開幕戦ではさらに3人が仙台の選手として公式戦デビューを飾った。彼らはそれぞれの持ち味を出し、2021シーズンのチームに新しい色を加えている。
 J1第2節・川崎F戦では、新戦力のうち上原力也が初めてユアテックスタジアム仙台でのゴールを決めた。左サイドに長いパスを出したあとにも足を止めず、ゴール前に進出。マルティノスのシュートのこぼれ球を蹴りこんだ。「勝負のパスを意識したことが、あの点につながりました。ペナルティーエリアで足を止めないようにしていました」という姿勢が生んだゴール。既に大差がついた状況ではあったが、それでも戦い続ける姿勢を切らさずゴールに向かった結果だった。
 この上原のパスを左サイドで受け、クロスでゴールシーンに繋げたのが氣田亮真。得意のドリブルで、自身初挑戦となるJ1の相手にも怯まず勝負をしかける。この上原のゴール場面では、「リキ君(上原)と目が合って、素晴らしいパスが来た」と動き出し、ボールをつないだ。「ああいうシーンをもっと増やしていきたい」。連係を更に深め、チームの勝利に貢献しようとしている。

プロの世界に踏み出した選手が経験したもの

 今シーズンからプロ生活をスタートさせた若手選手たちも、厳しい状況のチームで奮闘し、J1の舞台で経験を重ね、そして成長している。
 今シーズン加入した大卒ルーキー4人のうち、ここまで3人が公式戦のピッチに立った。アピアタウィア久と真瀬拓海についていえば、既に昨シーズン、JFA・Jリーグ特別指定選手としてJ1にデビュー済み。それでもキャンプからプロの生活のリズムで日々を過ごすことは初めてのこと。そのなかで出場機会をつかみ、結果を出そうと奮起している。
 開幕戦で先発出場し、その後もセンターバックとしてプレーしているアピアタウィアは、高さや速さを生かした守備で、J1の強力なFW陣に対抗している。「自分の特徴であるスピードと対人の部分ではじゅうぶん通用すると思いました」という好感触もある一方、「課題としては一瞬の集中が切れたときのミスが何回かある」と修正を誓う。
 真瀬はサイドバックとして出場を重ねる。今シーズンリーグ戦初先発となったJ1第3節・鳥栖戦では0-5の大敗に終わったが、鋭い飛び出しなどで攻撃において存在感を示した。「味方の選手と連係してクロスを上げる回数もありましたが、最後の精度のところは足りなかった。もっと練習しなければ」と先を見る。

 また、加藤千尋は3月3日のルヴァンカップグループステージ第1節・横浜FM戦の途中出場でJデビュー。その後も公式戦出場を重ね、「出場時間を増やしてスタメンで出られるように」と、ゴール前に迫る飛び出しや両足からの強烈なシュートを磨く。そして27日のグループステージ第2節・清水戦で初めての先発フル出場を果たした。「きつい時間も楽しい時間もあって、楽しさが勝りました」と振り返ったように、3本のシュートを放つなど決定機にからむプレーを見せたが、勝利に結びつく結果を出せなかったことを反省。「フィニッシュなどの質の部分がまだまだ」。ここで満足せず、チームに欠かせない戦力になるための成長を求める努力は続く。
 苦しい結果が続くなかでも、次の勝利につながる種は蒔かれている。手倉森監督は「3月は本当に苦しんだ月になりましたけれども、4月に月が変わって、本当に蘇ったベガルタ仙台を見せられるように、また準備をしていきたい」と言葉に力を込めた。チームの力を結集し、4月は上昇気流に乗りたい。

(by 板垣晴朗)