【アウェーレポート】あと1点が遠く…スコアレスドローで今シーズンのJ1復帰は果たせず

 勝たなければいけない試合だった。ベガルタ仙台は明治安田生命J2第41節・熊本戦で、会心の試合内容を見せていた。勝ち越し点が生まれたのは後半のアディショナルタイムだったが、内容では4位の熊本の攻撃力を封じて、攻守とも前に出る試合運びを貫徹。それまで3連敗と苦しい状況が続いていたが、その苦しみも無駄ではないといえる成長を見せた。

 熊本戦を終えた時点で、仙台の順位は7位。3位から6位までが進出できるJ1参入プレーオフへ行くために、つまり6位以内に入るために、仙台には最終節での勝点3獲得が必要だった。そのうえで、他会場の結果を待たなければならなかった。

 熊本戦で大きな手応えをつかんだチームの表情は、それまで以上に引き締まっていた。結果が出ない間も真摯に練習に取り組んでいた選手たちに、内容と結果を出したことで自信が加わったといえる。熊本戦で先制点を決めた富樫敬真は「難しい時期を過ごしてきたぶん、また強さを出してやっていける」とこれまでの努力を踏まえて前を向いていた。

 最終節の相手である秋田は、多少ラフなかたちでもロングボールを放りこんで、その競り合いを合図として多くの選手がこぼれ球を拾いにかかり、チャンスにつなげるスタイル。この相手に対抗するために、伊藤彰監督は「バトルで自分たちのセカンドボール回収を、相手ではなく我々が60%、70%にできれば相手は嫌がる。そのバトルに勝てないと、秋田はなかなか難しいチームなので、そういうところをしっかりしたい」と、こぼれ球奪取やそのあとに隙を作らず攻守の組織を作る練習を重点的に行った。

 その効果は、試合当日23日のピッチ上でしっかり表れた。試合前から雨が降り、ボールが落ちつきにくい状況ではあった。しかし仙台の選手たちは相手の放り込みに対してしっかり弾けるポジションをとり、その場所での相手との競り合いにも、こぼれ球を巡る戦いでも、優位に立ち続けた。

 相手がサイドに逃げようとしても、この日左サイドに抜擢されたキム・テヒョンが「裏のところやセカンドボールを意識してプレーしていました」と素早く進路を塞いだように、仙台の守備は力強く秋田の攻撃を止めた。そして攻撃に転じれば、あるときは真瀬拓海や蜂須賀孝治が代わる代わる攻め上がるサイドから、またあるときは中島元彦やフォギーニョが遠目からでもシュートを狙う中央から、多くのチャンスを作った。「どんなかたちでも良かったので先制点を取りたかった」とは中島。その意欲は確かに、プレーに表れていた。この日のソユースタジアムに駆けつけた仙台サポーターの大声援や手拍子にも背中を押され、仙台は圧倒的に試合を支配していた。

 しかし、ゴールだけが遠かった。

 前半も35分に中島のFKから三次攻撃までつなぐ厚い攻めを見せたが、相手守備陣のブロックによって入らず。44分にはCKに佐藤瑶大が頭を合わせたが、惜しくも右に外れた。後半になるとさらに仙台のチャンスは増え、54分に真瀬のクロス、55分にフォギーニョの左サイド突破、59分に中島のミドルシュートから決定機を作る。前半以上に一方的な展開に持ちこんでいた。

 伊藤監督は62分に、さらに攻撃に一押しを加えるため、2選手を同時交代。フェリペ カルドーゾと遠藤康を投入して、フォーメーションも3-5-2から4-4-2に変えて攻勢を強めた。この効果は大きく、早速64分に富樫敬真が惜しいヘディングシュートでゴールを襲い、66分にはカウンターからふたたび富樫が切り返してシュート。70分にはカルドーゾが自陣から単独で突破してシュートにまで持ちこんだが、いずれもゴールには到らなかった。

 刻々と過ぎる時間のなかで、チームはゴールを目指した。74分には真瀬の右サイド突破から作ったチャンスで、中山仁斗と富樫が連続でゴール前での決定機を迎えた。しかし2本のシュートは秋田守備陣の懸命のブロックによって弾かれる。76分には石原崇兆と皆川佑介が投入され、前線の人数を増やした仙台が猛攻を続けた。

 しかし数々の決定機は、相手の好守もあってゴールには到らなかった。仙台は0-0で試合終了のホイッスルを聞く。そして、他会場の結果により最終順位が7位となり、勝点1の差でプレーオフ進出を逃してしまった。

 選手たちは、充実の内容であっても、結果を手にできなかった悔しさを噛みしめていた。この試合だけでなく、シーズンをとおしての反省点をそれぞれ口にしている。「決めるべきところで決められない自分たちの不甲斐なさもそうですし、そういうところでこの順位になってしまったので、実力不足でした」(中島)「シーズンをとおしてチームの調子には浮き沈みもあると思うのですが、苦しいときに踏ん張れる力というか盛り返せる力というものが、今の自分達にはなかった」(中山)。ここまでに落とした勝点を悔やんでいた。

 そして、長いJ2リーグ戦を戦ったチームへ、この試合にも多く駆けつけた仙台サポーターから、試合後には大きなコールや応援歌が届けられた。今シーズン仙台に加わったキム・テヒョンは「サポーターがいなかったら、ここまでこられなかった。だからこそ、プレーオフに行きたかった」と応援に感謝。福森直也は自身の悔しさ以上に「スタンドのサポーターの表情を見ても本当に悔しそうですし、あれを笑顔にできるのは戦っている選手たちだけ。今シーズンは最終的な結果に責任を感じているので、来年こそJ1昇格という結果を最終的にもたらして、みんなを笑顔にできれば」と、後押ししてくれた人たちにこれから恩返しすることを誓った。

 伊藤監督はJ1昇格の目標を達成できなかったことについては、試合後に「最後に勝ちきれなかったことを申し訳なく思います。本当に、ファン・サポーターのみなさまと一緒に喜べなかったことを本当に残念に思います」と謝ったうえで、今後への展望を示した。「やろうとしていることへの吸収力は、すごく選手たちは出してくれたと思います。それが結果につながらなかったことは残念に思いますし、もっと積み上げればもっといいチームは作れると思いますし、まだまだ足りない部分があります」。さらに強く、逞しいチームとなって、今年に叶えられなかった目標を達成するため、指揮官は先を見た。

 24日に伊藤監督が来季も指揮をとることが発表され、2023シーズンを戦うチームが動き出そうとしている。2023年は同じ時期に、歓喜を味わえることを願いたい。

(by 板垣晴朗)