【レポート】日本とタイの縁をつなぐインターナショナルマッチ。バンコクFCと交流

 8月3日に、ベガルタ仙台が明治安田J2第25節で清水と対戦したユアテックスタジアム仙台。満員で盛り上がった雰囲気のもと、首位チームを2-1で破った。その興奮冷めやらぬ翌4日に、同じユアスタでもうひとつの貴重な試合が開催された。
「クラブ設立30周年インターナショナルマッチ」と銘打たれたこの試合では、仙台とタイの首都・バンコクをホームタウンとするバンコクFCが顔を合わせることとなった。このバンコクFCには、仙台のアカデミー出身で、2005シーズンから2011シーズンまでトップチームでもプレーした大久保剛志が在籍。大久保は出身地の宮城県岩沼市にYUKI FOOTBALL ACADEMY を設立しており、2023年の3月28日に仙台アカデミーと連携協定を結んでいる。その縁もあって今年の1月16日には、仙台とバンコクFCとのクラブ間の包括連携に関する協定が締結された。
 今回のインターナショナルマッチは、その協定に基づくもの。バンコクFCは昨シーズンにタイ・リーグ3(3部)で優勝してリーグ2(タイ2部)への昇格を決めており、この8月から新しい舞台でプレーすることとなった。そのシーズン前の貴重な機会に岩沼市でキャンプを実施し、仙台との試合に臨むこととなった。

 試合当日のユアテックスタジアム仙台には、3,354人の観客が集まり、両チームの対戦を見守った。はるばるタイからも、バンコクFCのサポーターが駆けつけている。仙台の選手達にも、仙台からタイに渡って長年プレーしてきた大久保にも、温かい拍手が贈られた。試合前には両チームが並んで記念撮影も実施している。
 ベガルタ仙台は前日の清水戦に先発出場しなかったメンバーが出場。前半のキックオフからバンコクFCを押しこみ、松下佳貴を中心としたパスワークで決定機を作る。バンコクFCもサイドからのカウンターで対抗し、右サイドのMFに入った大久保も素早い突破からクロスを上げるなどして見せ場を作っていた。
 前半は終始仙台が優勢で、ゴールまであと一歩のところまで迫る。18分にはゴール近くで直接FKを得ると、西丸道人がキッカーに名乗り出てゴールを狙った。22分には菅原龍之助が右サイドからゴールに抜け出して相手GKと一対一になり、29分には工藤蒼生のカットからつないでオナイウ情滋がシュートに持ちこむが、いずれも相手GKの好セーブに阻まれた。この夏に加わった梅木翼も33分にCKからヘディングシュートを打つなどゴールを狙ったが、決めることはできず。ときどきバンコクFCにしかけられたカウンターには知念哲矢と小出悠太が対応し、クロスを上げられてもGK松澤香輝と連係して跳ね返した。
 前半は仙台ペースながらスコアは動かず、0-0で終わった。

 バンコクFCのキッサコーン・グラサイグン監督によれば「緊張感もあったのか、自分たちのスタイルでプレーできなかった」とのことで、ハーフタイムには「勇気とスピードを出すように」と指示があったという。そのこともあって、後半はバンコクFCも前に出てプレーするようになった。
 仙台は相手が前に出てきた分、最終ラインの背後を突く場面を作れるようになった。47分には梅木が、48分と49分には名願斗哉が左サイドに抜け出してクロスに持ち込む。51分には名願が、53分にはオナイウがそれぞれサイドからゴール前に切り込んでシュートを放ったが、どちらも防がれてしまった。
 攻め合いになりながらも仙台の方が多く決定機を作っていたが、先にゴールネットを揺らすことができたのはバンコクFCの方だった。仙台の攻勢に耐えると、62分に一本のロングパスから途中出場のアーモンテープ・ムアンディが仙台最終ラインの背後に抜け出し、GK梅田陸空との一対一を制して先制ゴールを決めた。
 0-1とされた仙台はさらに攻撃に人数をかけてゴールを取りにかかる。一方のバンコクFCは控えメンバーを次々投入し、消耗する中でも守備の強度を維持して仙台の攻撃をしのぐ。75分には松下のCKに菅原が合わせたが、シュートは右に外れた。84分には、今度はオナイウが蹴ったCKに松下が合わせたが、これも惜しくも枠外。仙台が鋭く決定機を作る一方、バンコクFCも87分に自陣からのカウンターでシュートに持ちこむなど、前半よりも際どい場面を作れるようになった。
 攻める仙台、守るバンコクFCとなった終盤にも、スコアは動かず。90+3分に右サイドでオナイウが抜け出して作った決定機でもシュートは枠を外れ、0-1のスコアでタイムアップ。バンコクFCが勝利した。

 試合後、両チームには会場内から大きな拍手が贈られた。普段のJリーグの試合とはまた違う、温かい風景がそこにはあった。
 仙台の森山佳郎監督は、試合内容という点では厳しい評価をチームに下しており「先制点を決められず、ズルズルと『いつか取れるんじゃないか』というテンションでいるから、こういう目に遭う」と、J2リーグの次節・水戸戦に向け、気を引き締め直すことを選手たちに求めた。一方、この試合の意義について「ベガルタがリンクマンとなって、お互いの地域やクラブ間の友好を促進させるところでひとつの大きな取り組み」とあらためて貴重な機会であることを実感した。バンコクFCのキッサコーン監督は「とても楽しく、とてもワクワクした試合」と笑顔を見せ、「ベガルタ仙台を応援しているし、J1昇格を祈っています。すばらしいチームです」とエールを送った。
 この試合の実現に向けて尽力した大久保は、双方のクラブやホームタウン、また国同士の距離を近づける大きな機会になったことに感慨深い様子。「今日は3,000人を越える方々に来ていただき感動しました。地元でサッカーをできると夢にも思っていなくて、ましてや引退が近づいている中で、最後かなというところでこういう試合をたくさんの方が後押ししてくれて、本当に幸せな時間を過ごすことができました。感謝しています」。岩沼でのキャンプ、清水戦の観戦、そしてこの日のプレー、すべてを財産としてタイに持ち帰るという。仙台アカデミーの後輩たちにも「ベガルタの中心になってほしい」と思いを託した。
 仙台ユースの後輩にあたる菅原は、プロ生活20年目を迎える大久保のプレーから「とても尊敬しているし、僕も長く現役を続け、第一線で活躍できるようになりたい」とその思いを受け取った様子。今回のようなインターナショナルマッチについても「ベガルタがアジアや世界にもっと知ってもらうための機会を、今回だけでなく僕たちが継続的にやっていく必要がある」と未来を見据えた。そのためにも、この試合での悔しさもしっかり受け止め「日々の練習で努力して、チーム内の競争に競り勝って、最後に昇格へのピースになれるよう日ごろからの練習をがんばっていきたい」と成長を誓った。
 さまざまな温かい思いが集まったインターナショナルマッチ。縁がつながる、貴重な機会となった。

(by 板垣晴朗)